2014年10月08日
武田のブログ
武田です。
「スポーツの秋」ということで、いっちょ語ってみましょうか。
「走ることについて語るときに僕の語ること」
村上春樹著 文春文庫刊 2010年発行
おっと。
ひょっとして題名だけでドン引きですか???
もし今の皆さんの気持ちに題名なんてものがあるとしたら、
「走ることについて語られても迷惑。。。」
って感じでしょうか。
でも大丈夫です、今回僕は「走ること」について語りません。
さて。話の前に、小説家村上春樹さんのことを少し。
彼の存在は文壇だけでなく、間違いなく全世界の著名人の中でも異色。
”読みやすいのにとても難解”
他の作家と比べて書評が多いのも、その世界観が容易に理解可能なものではないという証拠です。
彼の小説を少しでも読んだことある人ならお分かりと思いますが、登場人物の年齢、身長、出身地、はたまた性的表現とか偏差値とか、具体的数値で表現されていることはきわめて少ない。
そういった生々しいことは全部読者に想像させるのが「ハルキスタイル」です。
そして「ハルキワールド」と呼ばれる独特の透明で滑らかな文体は世界中で翻訳され、今なお増え続けています。
一方で、プライベートはほとんど明かさない超秘密主義。
また、”毎年ノーベル文学賞候補にノミネートされながら受賞できない”ことが、彼のステータスにもなっているというパラドックス。
世界中の読者はみんな、どこかもどかしくて突き抜けない彼の次の作品を待ち焦がれています。
僕個人としては、
この人と同じ時代に生きている奇跡に心底感謝しています。
おそらくそれくらい何か重要な意味を持つ人のはずです。
彼の存在には何かしら世界の底流を変える意味合いが含まれていると思います。
そんな異色な存在の彼が、
この本に限っては、とてもリアルに等身大でまともな彼自身を描き出してくれています。自らを「走る小説家」と名乗る今回の著者の語り口は、いつもの小説的なものとは明らかに違い具体的です。
例えばフルマラソン完走タイムについて質問しても、「いつもの凡庸なタイムよりは幾分ましだった。」とか言いません。
「3時間を切ったのはずいぶん久しぶりだ。」といったリアルな表現に置き換わります。(正確なタイムは言いませんが。)
でも、これは彼のファンからすればすごいことだと思います。とっても赤裸々で、ちょっぴり恥ずかしい春樹さんの姿が垣間見えるわけですから。
また、そういったことを語るには著者自身少なからず勇気がなければ書けないだろうと素直に納得してしまいます。
この本は、マラソンやトライアスロン完走がどうのこうのと語る本ではありません。
ある日突然小説家になると決心して、小説家を続けていくために生身の身体を通してどんなふうに自分を高めてきたか、------読者や辛辣な批評家、あるいは小説そのものと向き合いながら。------その解を、真剣に走ることでフィジカルに考えていこうとする決意を告白している本だと思うのです。
彼のことを深く知るための貴重な手掛かりとしてオススメの一冊です。
最後に、この本の終盤、僕が気になった文章を引用して終わります。
「結局のところ、僕らにとってもっとも大事なものごとは、ほとんどの場合、目には見えない何かなのだ。そして本当に価値のあるものごとは往々にして、効率の悪い営為を通してしか獲得できないものなのだ。たとえむなしい行為であったとしても、それは決して愚かしい行為ではないはずだ。僕はそう考える。実感として、そして経験則として。」(一部省略)
「走ること」について僕は語らなかったでしょ。
今回、文中にハルキ的表現をいくつか散りばめてみました。
みなさんもたまには好きな小説家になりきって語ってみてはいかが?
今回更新日は、平成26年10月08日
次回予定日は、平成26年12月10日
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